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1984(昭和59)年6月五木村竹の川地区の大崩壊

1.気象概況
 昭和59年6月上旬、梅雨前線が活発化し6月7日から10日にかけて五木村で167mmを記録した。その後前線の活動は弱まったが6月下旬の22日から九州中部に前線が停滞し、東シナ海の低気圧の接近で活動が活発になり、五木村では特に28日112mm、29日132mmの集中豪雨となり、22日の降り始めからの連続降水量は492mmに達した。29日の午前0時からの1時間雨量が39mmを記録している。この豪雨で五木村竹の川地区で急傾斜地が山崩れを起こし、ふもとの5戸が崩壊土砂に埋まったり流されたりし、住民5世帯17人が生き埋めとなる大災害となった。

2.被害状況
 山崩れが起きたのは、五木村竹の川地区の国道445号から川辺川支流下梶原川を約200mさかのぼった北側斜面で、昭和59年6月29日午前1時半頃、大規模な斜面崩壊(幅60m、高さ180m)が発生(写真-1)し、急傾斜斜面と下梶原川にはさまれた傾斜地に被害を被った5世帯をはじめ14世帯が点在していた。28日午前中に大雨洪水注意報が出され、五木村では災害情報連絡本部を午前11時に役場内に設けていた。同夜11時熊本県は大雨洪水警報に切り替えられていた。現場近くの日本チッソ㈱竹の川発電所の自記雨量計では28日の午後11時からの3時間で123.5mm、最大1時間雨量(29日0時20分から1時20分まで)60.8mmの雨量を記録1)し、22日からの雨で地盤が飽和状態になっていたところに3時間で100mmを超える豪雨で大規模な斜面崩壊が発生した。当地域の地質1)は中古生層(砂岩、粘板岩、石灰岩チャート)と第四紀の堆積物(阿蘇火砕流の凝灰岩)よりなり、小規模な断層線が各所に見いだされる。崩壊源頭部の上方部山地は亀裂の多い石灰岩帯となり、この石灰岩の傾斜に沿って阿蘇火砕流堆積物(Aso-4)が乗っている。Aso-4は溶結部と非溶結部からなり、崩壊はこの堆積物層で発生している。非溶結部は風化が進み粘土化しており構造的に脆弱な地盤であった。竹の川地区は熊本県の危険箇所には指定されていたが、村の防災計画では浸水危険箇所には挙げられていたが土砂災害危険箇所には指定されていなかった。

写真-1 五木村竹の川地区の斜面崩壊

図-1 崩壊現場見取り図1)

写真-2 崩壊斜面(林道下段から上部を望む)

写真-3 滑落崖の浸透水噴出跡

写真-4 林道に設置された擁壁(崩壊箇所の上部)

写真-5 最上部の林道の状況(未舗装)

3.災害要因調査1)
 大規模斜面崩壊の原因究明のために、林野庁は調査団を組織し、調査が行われた。図-1の現場見取り図に見られるように、現場の斜面には上、中、下段のZ字型に林道が走り、最上段の林道の5~6m下から崩壊は発生している(写真-2)。滑落崖にはAso-4の非溶結部が風化し粘土化した表層と基盤の石灰岩の境界部分に地下水が噴出したとみられる跡があり、崩壊後も水が流れ出していることが分かる(写真-3、図-1の流水痕)。崩壊斜面の上部には林道工事によって設置された擁壁(写真-4)が存在し、また林道は未舗装(写真-5)のため、未舗装の林道から擁壁を大量の流水の越流の影響も考えられた。しかし、擁壁部には大量の越流の跡は写真からは見られない。風化粘土化したAso-4は写真-6,7に見られるように短時間でスレーキングを起こし、水に浸食されやすいことが分かる。崩壊斜面の端部で未崩壊の表層から試料を採取(写真-8)し、三軸圧縮試験(写真-9)を行った。
 その結果、全応力で内部摩擦角Φcu=28.4~33.3°、平均31.0°、粘着力Ccu=4.0~9.8kN/m2,平均6.6 kN/m2、有効応力でΦ’=32.7°~34.8°,平均33.6°、C’=2.9~5.9 kN/m2,平均4.1 kN/m2が得られた。有効粘着力が極めて小さく間隙水圧の影響で著しく強度低下する土質であることが確認された。

写真-6 風化粘土スレーキング前

写真-7 スレーキング開始3分

写真-8 三軸圧縮試験のための不攪乱試料採取(ブロックサンプリング)

写真-9 圧密非排水三軸圧縮試験後の供試体

 崩壊斜面の解析では、崩壊斜面の最上部の斜面において斜面の安定性を検討した。図-2のA断面(フェレニウスの分割法)で検討を行った。三軸圧縮試験において、せん断時の間隙水圧の発生が小さかったので、降雨時に飽和度が95%以上を越えて、浸透水によって飽和し、間隙水圧が発生するという有効応力による解析で安全率を論じることはできない。従って、ここでは全応力法で解析(せん断抵抗角31°、粘着力8 kN/m2、単位体積重量γt15 kN/m3)することにした。解析は円形すべり面を仮定して、1)すべり面に被圧水が作用しない場合、2)斜面に発生する場合の最大間隙水圧に相当する水圧が、すべり面に被圧水として作用する場合について検討した。

図-2 解析断面図1)

 その結果、
 1)の場合、安全率F=1.23
 2)の場合、F=0.87
となった。従って、円形すべり面を想定した場合、どの程度の被圧水の発生と分布があれば、斜面が崩壊に至るかを検討することができる。安全率0.95程度を下回ればすべり崩壊は確実に発生するものとして、この場合の被圧水を計算すれば最大間隙水圧の80%に達すればすべり崩壊が発生することが分かった。降雨による浸透水は石灰岩の割れ面を流下して、その下部の阿蘇火砕流堆積物層に被圧水として作用しているものと推定される。つまり、擁壁部からの越流が大量にあり、竹林の表層抵抗が極端に減少しガリ浸食が拡大し、表層浸食に拡大事実がなく、山腹斜面浸透水による被圧水の作用が原因であったものと推定される。

参考文献
1)(財)林業土木コンサルタンツ、熊本県五木村災害調査報告書、昭和60年3月